2012年02月09日LKM博士
先日発表した論文(Scientific Reports)解説します③ ―背景のつづき―
腸内常在菌がどんな成分(代謝産物)を大腸の中で産生しているのか?
実は私が盛んにアピールしているポリアミンもその一つです。
しかし、ヒト1個体当たり平均160種類程度の腸内常在菌が棲息している訳ですから、
他にも色々と作っているはずです。
腸内常在菌の代謝産物を調べるには、ウンコからそれらを抽出し、高度な分析機器で分析する必要があります。
最も使われているのが高速液体クロマトグラフィー(HPLC)といわれるものです。
ポリアミンもこれで測定しています。
他にも、現時点で研究が進んでいる酪酸などもこれを使って測定します。
しかし、ターゲットとする成分により、様々な分析条件(抽出、前処理も含めて)を変えなくてはならず、一度に網羅的に調べることは極めて困難です。
ポリアミンと酪酸を同時に調べることすらできません。
しかし、技術の進歩は凄いですね。
新たな分析技術が現れたのです。
慶応義塾大学先端生命科学研究所の曽我教授が開発された技術、
その名は、"キャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析計"
略してCE-TOFMS(英語で書いた場合の頭文字です)!
はい、訳わからんのは十分に承知しております。
ですが、これが名前なのでどうすることもできません。
代謝産物の多く(例えばアミノ酸など)は電荷を持っており、電圧をかけると自分の持つ電荷と反対の電極へ移動する(プラスのものはマイナス極へ)ので、その性質を利用して成分を分離する(一つ一つに分ける)のです。
これがキャピラリー電気泳動の仕事です。
そして、分かれた成分を飛行時間型質量分析計で何という物質なのかを決定するのです。
つまり、電荷を持つ物質ほぼ全てが一度の分析で調べられるのです。
そして、生物が作る代謝産物の大部分は電荷を持っているのです。
この方法を使えば、世界中の誰もやったことが無い腸内常在菌の代謝産物の研究ができると確信を持った私は、自慢の"少々強引な交渉力"を発揮して、予算内で研究を開始したのでした。
「少々じゃないでしょう。無茶苦茶強引でしょう」
という声が聞こえそうですが...。