2011年08月29日LKM博士
ほな、論文解説しますわ⑥ ―結果(大腸の遺伝子発現)―
LKM512を1年間与えたら、LKM512投与マウスと対照(LKM512を与えていない)マウスの大腸の遺伝子発現パターンが大きく異なったことは良くわかって頂けたと思います。
では、何が変動していたのか?
1つずつの遺伝子を比べていてもよくわかりません。
何しろ25,000個以上の遺伝子を調べておりますので。
しかも遺伝子の名前って、アルファベットと数字が殆どで、何に関連しているものかよくわからないのです。
DNAマイクロアレイ初体験の私は、
「絶対に良いデータやから、もう少し踏み込んで解析したら色々わかるはずやけど、一体全体、どないしたらええんや?」
と何ヶ月間も苦しみました。
結局、外注会社はここまで、つまり機械的に解析するだけで、その先の解釈のフォローは殆ど何もしてくれないんです。
そういうものなのですが...、同じ様に苦しんでいる研究者はたくさんいると思います。
悩んだ末に、前例に倣おうと、DNAマイクロアレイをやっている色々な論文を読んで解決方法を探しました。
その結果、パスウェイ解析というものに着目しました。
パスウェイ(Pathway)とは、代謝経路を意味し、一つずつの遺伝子ではなく、一つの代謝経路に入っている遺伝子をまとめて比較する方法です。
またまた、ウォッシュレット型トイレに例えて整理しましょう。
肛門洗浄に関連するまとまった遺伝子群を「肛門洗浄」パスウェイと考えて下さい。
このパスウェイには、"ノズルを出す"遺伝子や"お湯を噴出する"遺伝子、さらには"お湯の勢いを調整する"遺伝子などがあるでしょう。
つまり、洗浄ボタンを押せば動く一連の部品のそれぞれが一つの遺伝子と思って頂ければわかり易いと思います。
パスウェイ解析とは、これらの一つずつの遺伝子を個別に分析するのではなく、まとめて分析することで、肛門洗浄パスウェイが活性化しているか否かを、グループ間で比較する方法です。
その結果が図4(Figure 4)のCになります。
米国科学誌「PLos ONE(プロスワン)」掲載図
左の英語はパスウェイの名前、色が付いているレーンは左がLKM512マウスと若いマウスを、中央がLKM512マウスと対照マウスを、右側が対照マウスと若齢マウスを比較したものです。
色はこれらの活性の比較結果で、前者(中央のLKM512マウスと対照マウスの比較ならLKM512マウス)が強いと赤色、弱いと青色となります。
また、その比較の差の大きさで、赤色から青色まで9段階に色分けしてあります。
つまり、左レーンのLKM512マウスと若いマウスの比較結果には、濃い赤色や青色がありませんので、差が少ないことがわかります。
一方、LKM512マウスと対照マウスを比較(中央)して、LKM512マウスの方が弱くなっていたパスウェイには、つまり下の方の青色ですが、炎症経路に関連する遺伝子が多かったのです。
そして、これらの遺伝子は、対照マウスと若いマウスの比較(右)では、対照マウスの方が非常に高く発現しています(下の方が赤色になっている)。
つまり、加齢に伴う炎症パスウェイの活性化をLKM512投与で抑えていたことがわかります。
しかも、LKM512マウスと若いマウスの比較(左)では、差があまりないので、若いマウスと同程度に炎症パスウェイの発現を抑えていたのです。
さらにLKM512の炎症抑制に関連するデータはその後の図5(Figure 5)でも示しています。
今日の結果を1フレーズで述べると、「LKM512投与で大腸の炎症が遺伝子レベルでも抑えられていた」になります。
他にも色々な興味深いパスウェイ、例えば酸化ストレスなど、の変動が認められたのですが、ややこしいので、ここでの解説ではこれだけにしておきます。
今日は本当にこれを書くのに疲れました。
書いては消し、消しては書いて、昨日から2時間以上かかりましたね。