2011年04月05日LKM博士
研究の価値
今回の大地震の被害の状況は毎日報道され、4月5日の朝現在で、死者、行方不明者それぞれ1万2千人、1万5千人を超え、避難されている方は16万5千人を超えているそうです。
更に、原発の問題は目処が立たず、何もできない自分に苛立っている方も多いと聞きます。
職業柄、もし地震の研究をしていたら、もし原子力発電の研究をしていたら、"想定外"の一言で片づけて良いのか? と考える事があります。
また同時に、千年に1度の事だとしても、数百kmもの地盤が動き、50kmも川を遡上し、万単位の人間の命を奪った大津波、これだけの影響がある研究対象のスケールの大きさや研究者の責任の大きさ、つまりはその研究価値に圧倒されます。
一方、私の研究対象は腸内細菌。
ヒト(あるいはマウス)の体内に存在する腸という長いゴムチューブのような組織の最後の1m程度の部位(結腸)の中に住んでいる細菌、更にその細菌の体内のDNAや作り出す物質などを調べています。ちっぽけな世界です。
その肉眼では見えない"スケールの小ささ"は逆に驚くべきものでしょう。
ただ、腸全体で100兆個もの細菌が住んでおり、数値だけはケタ違いに大きいですが...。
今回のような天変地異を目の当たりにすると、私の研究のなど微塵の価値も無いかのように感じてしまいます。
何しろ被災地、さらに間接的に影響を受けている首都圏の混乱に対しても何の貢献もできないのですから。
とはいうものの、自分自身で価値を見出さなければ辛くなるので考えます。
例えば、腸内細菌が直接的に関与していると考えられている大腸ガン。
厚生労働省が発表している人口動態統計の、男女別の部位別がん死亡率(人口10万人当たり)は、ここ数年大腸がんによる死亡率が急激に高まってきており、特に、女性の大腸がんは、2005年以降死亡率1位になっています。男性は3位。
年間の罹患数(1年間で発症する患者数)は既に10万人を超えています。
このまま減る事はなく、2015年には20万人になるというデータもあります。
ガン宣告を受ける事は一個人としては極めて衝撃的なことです。
つまり、病院で検査を受けて大腸ガンとショックを受ける人が、年間10-20万人、つまり今回被害を受けられた方々とほぼ同じ数になります。
そう考えると、腸内細菌の研究を進めこれを減らすことに貢献できるなら非常に価値があることだと思います。
そもそも研究の価値は他人か決める事ではないのかもしれません。
地震の研究も、腸内細菌の研究も、益々発展することに期待しましょう。