協同乳業研究所 農学博士 松本光晴のブログ

ビフィズス菌LKM512研究スタッフ松本光晴博士が
お腹のためになる情報をお届けします。

2019年01月17日LKM博士
論文が掲載されました(BMC Microbiology)

2ヶ月前で報告が滞っておりましたが、
我々とサッポロホールディングスさん、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズさんとで実施した共同研究が、BMC Microbiologyに掲載されました!

タイトルは、
Taxonomic classification for microbiome analysis, which correlates well with the metabolite milieu of the gut
腸管内の代謝産物と相関する腸内細菌解析における分類階級
です。

なんのこっちゃ?
でしょうね。

腸内細菌に限らず、全ての生物は「種」に分類されています。
種とは、自然条件下で子孫を残すことができる生物集団です。
つまり、われわれは「ヒト」という種です。

また、系統分類学上では、
類似した「種」の集団を「属」という単位でグループにまとめ、
同様に、類似した「属」の集団を「科」という単位でグループにまとめ、
さらに同様に、類似した「科」の集団を「目」という単位でグループにまとめ、
もう一つ同様に、類似した「目」の集団を「綱」という単位でグループにまとめ、
もう一丁同様に、類似した「綱」の集団を「門」という単位でグループにまとめて表します。

「ホモ・サピエンス」 一度は聞いたことがあるでしょう。
これは、ヒトを指す学名ですが、ホモ属サピエンス種という意味です。
では、門のレベルまで含めてヒトを表すと、
日本語では、脊椎動物門 哺乳綱 霊長目 ヒト科 ヒト属 サピエンス種
ラテン語では、Chordate Mammalia Primates Hominidae Homo sapiens (属と種名はイタリック体表記が基本的ルール)
ヒトとチンパンジーの系統分類学上の違いは属レベルで生じます(チンパンジー属)
ところが、ヒトとウシの違いは目レベルで生じます(牛は鯨偶蹄目)
ヒトとタコの違いは門レベルで生じます(タコは軟体動物門)
進化の過程で古く分岐した生物とは上位の分類階級で別れているということです。

細菌も同様に系統分類されており(16S rRNA遺伝子の配列をベースに)、
我々が調べた腸内細菌叢も、この分類による学名で表記します。
その際、分類階級のどの階級を用いて結果を分析しても自由です。
従って、研究者によってバラバラなのです。
極端な話、肥満に対する腸内細菌叢の影響を調べる研究をしていても、
「門」のレベルで語っている研究者もいれば、「種のレベル」で語っている人がいるわけです。

この状況、少々、困りませんか?
地球上の動物を腸内細菌叢に置き換えて考えると(極端かもしれませんが)、
軟体動物と脊椎動物の比率で議論している人がいると思えば、
トノサマガエル、アフリカゾウ、ハラビロカマキリという次元で語っている人もいるわけです。
自由なので...。
しかし、私はかなり困惑し、苛立ちすら感じておりました。

そこで、自分達の目的に適した最適分類階級を決めてしまおうと思ったわけです。
我々は80匹弱のマウスのウンコを集めて、
生体への影響が大きい腸内細菌の産生する代謝産物を指標にして、
代謝産物の個体差とリンクする分類階級を探索することに挑戦しました。

つまり、我々が標的としている腸内細菌の代謝産物の研究を行うにあたり、
どの分類階級で分析すれば正しいゴールに近づき易くなるのか、
どの分類階級で分析された他人の論文データを参考として選択するべきか、
自分達で確認しようとしたわけです。

結論から述べると、
「科」より低い分類階級(つまり、科、属、種)で得た結果は、
代謝産物とリンクしていました。
門、綱、目のレベルで得た結果は、リンクしていなかったです。

もし、「私も困ってた」という研究者の方がおられましたら、ご参照下さい。
フリー・アクセスです。

BMC Microbiology 18:188, 2018
https://bmcmicrobiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12866-018-1311-8

本研究に関連するエピソードを書くとすると、これでしょうね。
筆頭著者のWakita氏は、80匹分のマウスのウンコを回収する際、
屈みこんで、排便を待ちながら1つ1つピンセットで回収するという、
丸一日におよぶ慣れない動作の繰り返しにより、
翌日、日常生活にも支障が出るレベルの強烈な全身痛に陥り、
(おそらく、足腰から背中・頸部におよぶ筋肉痛)、
飲み会を欠席しました(笑)。

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