シオヤアブがベニカミキリを狩った時の様子は簡単に推測できる。
①明るい草むらで草や石など少し高めで見通しの良い位置でじっと待ち伏せしているシオヤアブ
シオヤアブに限らずムシヒキアブ科のアブは匂いや触覚ではなく、視覚で狩りを行う。恐ろしく動体視力が良い。
②何処からか飛来して、シオヤアブの周囲数mの範囲(縄張り)に入って来たベニカミキリ
どんな昆虫であろうが、ここがシオヤアブの狩場であるとは気が付かない。もちろん虫好きの我々でさえ、シオヤアブが一度飛び出さない限りその存在に気付くのは難しい。カミキリムシやコガネムシなど飛翔スピードが遅い昆虫は格好の獲物となる。
③ベニカミキリに向かってシオヤアブ発進
縄張り内を飛翔する物体を無差別で攻撃する。たとえば、石ころや松ぼっくりを投げても発進する。いや、攻撃というより、襲撃あるいは奇襲と表現すべきかもしれない。ほぼ全ての昆虫は襲われるまでシオヤアブの存在に気付いていない。
自分の体(約3 cm)より大きい獲物でも襲撃対象である。信じられないであろうが、自分の何倍もの大きさのあるセミ、昨日挙げた最高レベルのハンターであるオニヤンマやオオスズメバチであっても発進・襲撃する。実際にこれらの大型肉食昆虫を獲物にした例は数多く報告されている。
ティッシュを丸めて彼らの縄張りに投げ込むとハンティングの様子がよく観察できる。
④空中で捕獲
発進して1秒程度、長くても2秒程度の出来事なので自分の目で動きを確認したことはないが、獲物を捕獲した後の様子から推測すると、背後から近づきレスリングでバックをとるような感じで棘のある足で抱えるように捕獲すると思われる。ほぼ全てのケースでバックを取った状態になっている。オニヤンマ相手に正面から向かうことは自殺行為なので、やはり後ろから近づく洗練された技術を身に付けていることは間違いない。
また、彼らの襲撃は1回限定。襲撃に失敗したら諦め、同じ獲物を追い回すことはない。おそらく、後翅が退化しているアブであるため、それ程飛翔力には長けていないからであろう。
⑤尖った口器をベニカミキリに刺しながら着地
ヒトが刺されても痛そうな太い口器を背中側から刺す。この口器は強力で、コガネムシ等硬い翅を持つ甲虫類の背中も突き破る。
小さな獲物だと捕獲後綺麗に着地するが、自分と同等、それ以上の獲物の場合は、墜落するかのように転げ落ちてくる。このシーンは、一瞬、2匹の昆虫が取っ組み合いの喧嘩をしているように見えるが、シオヤアブが凶器を突き刺し仕留める段階であり、既に勝負はついている。どんな昆虫であろうが助からない。シオヤアブの貪欲さは凄まじく、たとえヒトが拾い上げようとも獲物を殺すことに集中していて殆ど気付かない。
これ私の手の上である。こんなに食事風景が撮影し易い肉食昆虫は珍しい。
ジャン・アンリ・ファーブルは狩バチ(獲物を狩り、殺さず麻酔をかけた状態で巣に持ち込み卵を産むハチの総称。獲物は幼虫の餌となる。種毎に特定の昆虫、クモであったりイモムシであったり、を標的とする)が毒針を獲物の神経の集まっている部位に刺し、一瞬で獲物の動きを止めることを著書に記しているが、おそらくシオヤアブも背中側からその辺りの部位を刺していると思われる。いつも似たような場所を刺しているのでそう推測している。ただ、狩バチがピンポイント且つ一瞬で神経毒を刺しているのと比べると、シオヤアブは雑に大きな凶器で刺しているという印象を受ける。「死ねば良い」という程度で。その証拠に、獲物は長時間もがいている。
最後は、獲物を突き刺している口器が見える写真をどうぞ。
まずは真横から。
太い口器がわかるであろう。
次は、シオヤアブがほぼ絶命したベニカミキリを抱えて少し飛び、お気に入りの場所で食事に専念している時に覗き込むように真上から撮った一枚。
この機にシオヤアブを覚えてもらえると嬉しい。
書き忘れたが、見かけても怖がる必要はない。
飛んでいる物しか攻撃対象ではないので、シオヤアブからヒトを刺して来ることは無い。
しかし、もし捕獲した場合、素手で触るのはやめた方が良いと思う。
指を刺されたら、たぶんめっちゃ痛い。
【捕獲時満足度】4(10点満点)
虫捕り網で非常に捕獲し易く、大して珍しくもないので点数は低い。但し、ハンティングを生で見られた時は満足度10点の最高点である。